楽しく実りある人生を共に歩もう

楽しく実りある人生を共に歩もう

火の粉感想

calendar

reload

『犯人に告ぐ』や『クローズド・ノート』など、映画化された作品も数多くある人気作家、雫井脩介氏の作品で、隣に引っ越してきた男性の恐ろしい本性が徐々に露わになっていく背筋が凍りつくようなミステリー小説です。過去に二度ドラマ化されています。

元裁判官の梶間勲はかつて、殺人事件の犯人として公判中だった武内に無罪判決を下しました。梶間にとっては裁判官としての信念を貫き、正義を実現したはずの判決でした。しかし、裁判から2年経った頃、武内が隣に引っ越してきたことから、梶間一家の周辺には不審な出来事が相次ぐようになっていきます。自分が下した無罪判決は本当に正しかったのか?梶間は悩み始める、そんなお話しです。

この本は、何と言っても「武内のもつ異常性」が最大の見どころです。武内は一見すると人当たりがよく、不幸な冤罪事件の被害者のように見えます。酷い目に合いながらも健気に生きている、そんな人物に見えてしまうのです。武内の振る舞いは梶間一家を巧みに取り込み、徐々に信頼を得て家族の中に入り込んできます。 武内の行動は「善意」からきているものであり、無罪判決で救ってくれた梶間のために尽くそうとしているように見えてしまうことが問題をややこしくします。「善意」は場合によっては「悪意」より扱いづらい時があります。拒否することが、断る側の罪悪感を刺激し、負担となります。こんなにいい人を疑う自分の方がおかしいのではないか、そんな気持ちにさえなります。武内ほどではないにしろ、善意を押し付けて、感謝と承認を強要する人間はたまに見かけると思います。武内はそんな人と接した時のしんどさをふと思い起こさせました。

人に認められたいという欲求は誰でも持っていますが、武内の承認欲求は肥大化しすぎて、彼を怪物にしてしまったのです。梶間に認められたいがため手段を選ばない武内の行動は徐々にエスカレートしていきます。そして善意が拒否されたとき、敵意に裏返ります。2年前の無罪判決は正しかったのか、真実はどこにあるのか、明かされる瞬間は絶望的な気分になりました。

武内の異常さに背筋が凍りつきながらも、最後までページをめくるスピードは落ちることはありませんでした。クライマックス、自信が原因となって家族に降りかかってきた火の粉を払う勲の決断は、予想外なものでアッと言わされます。最後の最後まで読者を惹きつけてやまない作品ですので、ミステリー好きの方にぜひお薦めしたいです。

火の粉



この記事をシェアする