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『ろくろ首の首はなぜ伸びるのか』感想 下らないことを大真面目に説明しているところにこの本の面白さがあります。

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 筆者は分子生物学者で、新書やマンガでわかる生化学など、一般向けに生物学について分かりやすく説明する本を多数執筆しています。

この本では妖怪をテーマに、実際妖怪が存在しているとしたら、現在の生物学、解剖学的にどのように説明できるかを書いた本です。

空想科学読本という、ゴジラやウルトラマンなどのSFヒーローや怪獣が実際に存在した場合、どのようなことが起きるかを考察した本が一時期に流行りましたが、この本は空想科学読本の妖怪版でです。

下らない本といえなくもないのですが、下らないことを生物学の教科書での説明のように大真面目に説明しているところにこの本の面白さがあります。  

この本では題材としてろくろ首や千と千尋の神隠しのキャラのカオナシ、人魚やケンタウロス、番町皿屋敷などを挙げています。

ろくろ首は首が非常に長い人型の妖怪だが、首が伸張するための機能として、筋肉の収縮に関わるミオシン・アクチンに着目して考察しています。

カオナシについては、飲み込んだ妖怪の声で喋れるようになる仕組みを、生体内に入れた異物を認識して排除するために働く抗体と、声の発声に必要な器官の声帯と気管に着目し、これらが上手に機能して、カオナシの声帯が飲み込んだ妖怪の声帯と同じ形になる仮説を立てています。

人の上半身と馬が結合したケンタウロスに関しては、極めて大きな体を維持する必要があることが考えられることから、牛のような反芻性腸が馬の胴体部分に、消化に必要な大きな胃が人間の胴体部分に収められている仮説を立てています。

番町皿屋敷においては、お菊が数えるお皿が9枚である理由を、細胞分裂のメカニズムとゲノムの構造を元に仮説を立てています。  

もちろんこれらの妖怪は実在しないことから、仮説の検証をすることはできないのですが、正確な生物学の知識と、妖怪の詳しい文献、さらには妖怪がいた時代背景を考慮しながら立てられる仮説には妙な説得力があります。

下らないことを真剣に考えることは、実はとても楽しいことです。近年、研究の分野でも役に立つことばかりが重要視される傾向があります。

もちろんそれはとても大事なのですが、科学の真髄は役に立つ・立たないに関わらず疑問を持ったことに対して、仮説を立て、徹底的に考察し、時には実験をして仮説を確かめるところにあります。

特に仮説を立てるところはある意味一番自由な段階で楽しい工程です。この本には仮説を立てる楽しさがにじみ出ています。

これまで生物学を学んだことがない方には少しピンとこないかもしれないですが、高校・大学で生物学を学んだ方には結構楽しめる内容になっているのでお薦めしたいです。

ろくろ首の首はなぜ伸びるのか―遊ぶ生物学への招待―(新潮新書)