太平洋戦争日本の敗因感想

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『太平洋戦争 日本の敗因』は、NHK取材班編集のノンフィクションで、角川文庫から発売されています。文庫版で全6巻です。タイトルが示す通り、1941年から1945年に到るまでの太平洋戦争において、日本が敗北した原因を多角的に分析した内容です。開戦へ舵を切る契機となった経済・外交の面での軋轢から始まり、軍民協力体制の不備、用兵・兵站の問題点、機械化や電子機器導入の遅れなどについて、日米を問わず多数の関係者からの証言に基づいて考察しています。このシリーズはTVドキュメンタリー製作プロジェクトに伴い、映像化しきれなかった部分を含める形でNHK取材班が文庫版にまとめたものです。このプロジェクトによって新たに明らかにされた資料や証言内容も数多く著されています。既に21世紀となり、当時の実態を知る生き証人が数少なくなってしまった現在だからこそ、一読をお薦めしたい内容です。

本作のプロローグは、ベトナム沖に沈む旧日本軍の輸送船を潜水調査する所から始まります。ベトナム中部クイニョンの海岸で、現地に詳しい人物の案内によって沈没船の在り処を突き止めます。沈没した輸送船は魚たちの棲みかとなり、恰好の漁礁と化していて、案内人を務めた男性の村ではよく知られていました。潜水調査の結果、その輸送船は「ヒ八六船団」に所属した鉱石運搬船「辰鳩丸」だと判明します。 ヒ八六船団は戦争後期の1945年1月に編成され、練習巡洋艦を旗艦とした海防艦によって護衛されていましたが、アメリカ軍機の攻撃を受けて壊滅しました。辰鳩丸に続いて、ヒ八六船団のうちで最後に沈没したというタンカー「さんるいす丸」も海底から発見されます。空襲を受けた当時の様子を知る元航海士の証言から、迎撃能力を持たない輸送船の壮絶な最期が浮き彫りになります。

本シリーズの魅力は、膨大な資料・証言に基づいた大きな「事実」が纏められている事です。戦争にまつわる事実は、それに関わった人の立場によって全く異なる様相を持ちます。軍人・民間人ひとりひとり立場は異なるし、更に現代では戦後生まれの世代のほうが多数になっています。太平洋戦争について語る切り口も人それぞれであり、日本が開戦に踏み切った経緯について、また「敗戦」の概念についても全く異なる知見があります。戦中に起こった多くの作戦についても「もしもあの時〇〇が開発されていたら」「あの時〇〇が実戦配備されていたら」というような考察も様々に語られています。しかし本作では戦争における勝敗や、戦争そのものの是非を語る場面は極めて限定的で、多くは証言者の言葉として登場するに留まります。太平洋戦争に関わった幾多の人物……文官武官、前線での戦闘体験者、技術者、民生の立場にあった人々……の体験と、古戦場や日米の資料館から見つかった証拠品から読み取れる膨大な情報すべてが主役です。そこから何を学ぶか、何を感じるかは、あくまで読み手に委ねられています。

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