楽しく実りある人生を共に歩もう

楽しく実りある人生を共に歩もう

知らない映画のサントラを聴く感想

calendar

reload

ライトノベル作家として有名な竹宮ゆゆこさんが新潮文庫のレーベルで本格的に活動し始めてからの作品が「知らない映画のサントラを聴く」です。 「知らない映画のサントラを聴く」は共通の大切な友人を亡くしたことによって出会った男女の恋愛小説です。 主人公である枇杷が形見として持っている写真をある夜何者かに路上で盗まれてしまったことで、夜な夜なその犯人を捜しに連日繰り出します。 そしてようやくその写真を奪い取った犯人と遭遇しますが、その相手は枇杷の大切な友人で今は亡くなってしまった朝野の元恋人だと名乗ります。 男と枇杷は朝野を通してそれぞれの悩みや苦悩を分かちあっていきます。

この小説のみどころは枇杷が遭遇した相手が朝野の元恋人というだけでも驚きなのに、セーラー服姿で枇杷の前にあらわれるところではないでしょうか。 写真を奪われた時と合わせて強烈なシーンです。 普段は整骨院で働いている普通の男性である昴がどうしてセーラー姿で街を徘徊するようになったのか、その理由や考え方のプロセスはとても面白く、非現実的な設定なだけに説得力があります。 枇杷と昴の共通点は朝野を亡くしたことにより、これまでの生き方ができなくなったということです。 枇杷はニート状態で実家暮らし、親のすねかじりで働く気力はなくだらだらと過ごす毎日でした。 けれど両親と兄夫婦によって家を追い出されてしまいます。 一方昴は朝野と交際中はさほど仲がよくありませんでしたが、朝野の死を知って葬式に参列して以来、新しい彼女ができてもうまくいかずに恋愛感情を持てずにいました。 そこで朝野を復活させようと昴は自分が二代目朝野であると、彼女の高校の制服であるセーラー服と黒髪のウィッグを被るようになります。

この小説では同じ喪失感を抱えた男女が出会って二人で乗り越えていく姿が印象的です。 何気ない会話、そして行動によって気づく、気づかされて傷を癒やしていったのでしょう。 特に朝野の死因が溺死は事故なのか、それとも自殺なのか最後まで明かされなかったことがとても意味があるように思えます。 過去のことの正解や真実を探しているよりも、未来に向かって何かを探そうとする希望の方が上回ることが人間が生きていくには必要なのだと二人の生き方から感じ取れました。 最近は災害なども多く人の死が理不尽に訪れることもあるからこそ、「知らない映画のサントラを聴く」では残された人たちの生き方や考え方が描かれているのだと思いました。男女の淡い恋愛模様も注目ですが、死生観のテーマも大きく絡めてあるので、枇杷や昴と同じように大切な人を喪失した体験をした人にお薦めしたいです。

知らない映画のサントラを聴く (新潮文庫nex)

新品価格
¥680から
(2018/1/8 20:58時点)

この記事をシェアする