用心棒日月抄感想

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著者・藤沢周平の時代小説「用心棒日月抄」(ようじんぼうじつげつしょう)は、1978年に新潮社から刊行され、文庫版も発売されています。また過去にたびたびTVドラマ化されている人気シリーズです。

作中の時代設定は元禄年間で、主人公・青江又八郎が「用心棒」となって様々な事件に関わります。青江又八郎は東北にある小藩の出身で、やむなき事情から脱藩して江戸へと流れ着き、糊口を凌ぐために口入屋(職業斡旋所)の店主・吉蔵の世話になります。 本来は武家であった青江又八郎は、剣術の腕に自負があり、割の良い稼ぎになる用心棒の仕事を引き受けます。吉蔵の店で知り合った細谷源太夫らと共に稼業に精を出しますが、赤穂浪士の討ち入りを迎撃する立場に就かされたりと数奇な運命を辿ります。

この作品の大きな魅力は、主人公・青江又八郎の人柄にあります。脱藩して故郷を離れたのも止むなき事情があったためで、進んで悪事に手を染めるような人物ではなく、どちらかと言えば善人です。しかし江戸に流れ着いて路銀も尽き、口入屋で紹介される仕事をこなす毎日を送るうち、立派な武士とは呼べぬ風体に成り下がってしまいます。用心棒の仕事には命を削るような危険が付きまとい、しかも故郷から追ってきた刺客が、用心棒の仕事中であってもお構い無しに襲撃してきます。やむを得ず安全な仕事を求め、口入屋で留守番や土木作業の人足など様々な仕事を引き受ける事になります。生活費に困窮し町人に米を借りたり、口入屋で日雇いの仕事を物色するうち、いつの間にか青江又八郎は隣近所の町人とも馴染みの間柄になります。単なる好青年が、世間の波に揉まれて味わい深い人物像になっていく過程が、実にリアルです。 口入屋での仕事を続けるうち、その日暮らしが身に染み付いた青江又八郎は、江戸で一介の脱藩浪人として落ちぶれていきます。しかし故郷からの刺客は執拗に送り込まれ、それを返り討ちにする度に、青江又八郎は武士としての矜持を否応なく再認識させられます。

刺客のうちの一人は女性で、名前は佐知です。はじめに青江又八郎の命を狙い襲撃する際には、容赦無き殺意を発して凄味すら感じさせます。彼女は戦いで怪我を負うものの生き延び、後に奇妙な縁で青江又八郎の貴重な協力者となり、親密な関係を築きあげていきます。佐知のキャラクターも実に魅力的です。青江又八郎自体は架空のキャラクターで、史実と大きく関わる描写は、用心棒として吉良邸の警護をするくだりに凝縮されます。しかし江戸や東北小藩の風景描写や、武家に限らずあらゆる階級の人物像を肉付けする生活描写の数々は、多くの歴史小説を手がけた藤沢周平だけに極めて上質で、読み手に安心感すら与えてくれます。人間の悲哀を描くだけでなく、藤沢周平にしては意外なほどユーモラスなタッチが多いのも本作の魅力です。歴史小説にリアリズムだけでなく”楽しさ”も求めたい気分な時には、ぜひお薦めしたい作品です。

用心棒日月抄

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