今回私がお薦めしたいのは横山秀夫さんの「震度0(ゼロ)」です。 1冊の本に描かれているのは、ほんの数日の出来事。 でもその中に描かれている各登場人物の心模様が入り乱れ、少々異色の刑事小説となっています。
あらすじは、阪神淡路大震災のタイミングに突如、N県警にもたらされたニュース。 それは県警内の影の要とも言うべき刑務課長が失踪したのではないかという前代未聞ともいうべき不祥事の幕開けだったのです。
N県警の威信にもかけて震災の現場へ然るべきタイミングで送る手筈を進める一方で、決して外部に知られてはならない失踪事実。 キャリア、ノンキャリア、準キャリアそれぞれの思惑が足並みを揃えることを拒み、解決へと歩めない状況。
しかも関係幹部は同じ敷地内の幹部公舎に住み、それぞれの伴侶が織りなす情報戦も白熱する一方。
そして最後に明らかになる失踪の真相。 その情報を明らかにした意外な人物とは? 最後まで決着が読めない、ドキドキの展開です。
この小説を書いた横山さんは新聞記者を経て作家になった経歴の持ち主。 そういった経験を生かして書いたからこその力作なのでしょう。
一枚岩と思われがちである県警で、こんな心理戦が日常的に繰り広げられているなんて想像を超えています。
果たしてフィクションなのか、それともノンフィクション!? 真面目実直ばかりがウリの刑事が活躍するのではなく、犯人の狡猾さが読み手をリードするわけでもなく。
2005年に発行された小説ですが、現在読んでも「使い古された題材」という印象は一切なし。
警察という至上の模範を求められる場で、これほどまでに私利私欲に走れるのならば、それはそれで清々しいのかもしれません。 その欲望を達成する為に、私生活をも犠牲にして励んでいるのですから。
また、伴侶である奥さんたちの力関係が興味深かったです。 主役である男たちの立場で年齢などに関係なく力関係が出来上がってしまうのがある意味滑稽。
普通の団地に住む呑気な奥様方とは異なる一面に、警察官とは家族ぐるみで「警察のために」という奉仕の心を持ち合わせているのかもしれないと気の毒にさえ思いました。
実際のところを計り知ることはできませんが、奥の深い小説であったことは確かです。
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