大して親しいわけでもない四人の男たちが、どういうわけか一緒に旅行をすることになるという物語です。(光文社文庫 麻宮ゆりこ著)
それだけでも「なぜ?」と思うでしょう。しかも最初の旅行は、「疎遠だった肉親に会いに行く」という極々個人的な目的のもの。
ちょっとしたきっかけから、そこに部外者三人が同行することになります。一人で行くはずだった旅は、何だかちょっと可笑しな道中に。
そしてその後も、彼らは何だかんだと旅行を繰り返すことになります。そんなふうにして始まった旅が、表題作『敬語で旅する四人の男』を筆頭とした四つの短編として、1冊の本に納められています。
旅をすることになる四人はいずれも、世の中からずれていたり、周りからの期待に違和感を抱いていたりと、少しずつ生きづらさを感じています。
四人のうちの一人、斎木先輩が際立ってエキセントリックなため、最初は彼以外の全員が「ふつう」であるかのように感じられるのですが……。
4人に順番にスポットが当てられる中で、段々とそれぞれの抱える鬱屈が見えてきます。 視点が変われば見える世界も変わり、人の印象も違ってきます。
そんな中で、「きみ、そんなこと考えてたの!?」と、驚かされることもしばしば。人付き合いを疑似体験させられているような気分になってきます。
メンバー最年少の仲杉くんの物語が、私には特に意外に感じられました。彼女の束縛に悩み、携帯電話の着信履歴に慄く若者。最初の短編だけを読むと、「ふつうの人」、むしろ「リア充」と呼ばれるような人の代表であるかのようにも思えます。
しかし、その彼もまたけっこう深刻な問題を抱えているのです。複数の問題が絡み合い、ある意味一番根深いものになっていると言えるかもしれません。
「他人が見ただけじゃ分からないなあ、人の問題なんて」と、しみじみ感じ入りました。
ただし、彼らも別に善良なだけではありません。「生きづらさを抱えている」などと言うと世間の常識の犠牲になったように思えてしまうところですが……。
そんなことはなく、周囲に迷惑をかけることもたびたびあります。その点はやはり、最大の変わり者である斎木先輩に顕著です。
しかしその一方で、その「ふうつうじゃなさ」に基づいた行動は、しばしば他人の問題を軽くもします。
変わり者であることは、良いことだけでも、また悪いことだけでもありません。それは、世間一般に言われる「ふつうの人」と、何ら変わりないことでしょう。
だから「ふつうの人」などという認識に意味などないのだと、そんなふうに感じられます。
この本を読むことにより生きづらさを感じている人なら、少し胸のすくような、清々しい気分になれるのではないかと思います。ぜひお薦めしたい1冊です。
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