事故物件で一人暮らしをしてみた
俗にいう事故物件と言う言葉をご存知でしょうか。
主に賃貸物件などで、前入居者が何らかの理由で亡くなった物件を指します。
不動産には「告知義務」があり、不動産売却や賃貸の際、その物件が以前、自殺や殺人などの死亡事故があった事故物件や災害に見舞われたり、周辺に火葬場があるなどの周辺環境で心理的瑕疵(かし)物件である場合、不動産業者はそれを買主や入居希望者に伝えなければならない、という宅建業法の決まりです。
しかし、一度所有者が変われば、告知義務はなくなります。
このため、事故物件は相場より安い家賃で入居者を募集しており、公社物件など3年も半値の家賃で住むことができます。
丁度引っ越し先を探していた私は、この事故物件に飛びつきました。
電話で予約は出来ないため、すぐに渋谷にある公社の窓口に行ったのです。
そこでは、いくつかの事故物件を紹介してもらうことができましたが、告知義務により前入居者の死亡状況を全て入居希望者に話さないといけないのです。
幸い公社は築年数が長いものが多く、死亡状況は高齢者の自然死がほとんどでした。
ですが、私が選んだ物件は世田谷区という立地なのに、借り手が着かない物件でした。
それは、前入居者が自殺だったからなのです。
私は、世田谷区という立地に惹かれ、詳しく死亡状況を聞いてみました。
もう7年ほど前になりますが、当時45歳独身女性が北側の鴨居で首を吊って亡くなったとのことです。
事故死という扱いになるため、すでに一度入居者が変わっていますが、特別に3年間半値の対象となっているそうです。
世田谷区で3万を切る家賃はかなり魅力的です。
霊感が強くない私は思い切って入居をすることにしました。
内覧すると、こじんまりとした2SKという間取りで2LDKのリビングを無くして天井は少し低くした昭和感のある団地でした。
北側の寝室にある鴨居を見ましたが、年季による変色以外は霊的なものは感じませんでした。
ただ、玄関を開けて直ぐに鴨居が目に付くのは気分の良い物ではないかもしれません。
家賃に惹かれた私は、結局ここに住み始めます。
最初は、警戒して寝る時も寝室や玄関の灯りをつけたまま寝ていた私ですが、数カ月もすると慣れてきました。
丁度同じころ、郵便物の間違いがたまに届く様になったので、郵便局に問い合わせると、以前入居していた男性の郵便物だったため今後は届けないということになりました。
私の名前を見れば女性と分かるのだから、配達員の人も気を使って欲しいなと思っていた矢先、今度は女性名義の封書が届きました。
これには、私もピンときました。7年前に自殺した女性への郵便だったのです。
インターネットで名前を検索しても見つかることはありませんでした。
ただ、7年前に自殺した女性の名前を検索しているのに、その結果に以前に届いた郵便物の男性名義が出てくるのです・・・
自殺した女性と、次に住んだ男性はどんな関係があったのでしょうか。
そのことを考え出してから、急に北側の寝室の鴨居が気になりだしました。
部屋干しの洗濯物をぶら下げていたりしたのですが、夜にふと顔をあげるとそれが人影に見え「キャッ」と声をあげて怯えたりすることが何度かありました。
そうなると、霊感の無い私でもいてもたってもいられなくなり、昭和の団地特有の床下から吹き上げるような風さえも怖くなってきました。
耳を澄ませば暗い階段を誰かが歩く足音が聞こえます。
私一人の部屋で「ガタッ」という物音がした時、私はこの家を引っ越すことにしました。