「愛の国」と呼ばれるフランスに住んでいた時の話。フランス人の知人と街を歩いている時に、反対側の道路で通行人にお金をせがむお爺さんが居た。物乞いだ。みなりもボロボロだったが、綺麗なお姉さんが通った時に立ち上がって話をしていたのが気になった。お姉さんもニコニコしながらお爺さんと話をしている。日本では考えにくい光景だ。
すると横に居た知人が「あの人はお姉さんをナンパしているね」声が聞こえる距離ではないから、実際の会話の内容は分からないけれど、知人がそう言うという事は、フランスではよくある光景らしい。私は「物乞いで、身だしなみもボロボロなのに、よくあんな綺麗なお姉さんに声をかけられるね」と聞くと知人は「そんな事は関係ない。綺麗な女性が居たら声をかけるのがフランス人さ」との事。ちなみにナンパが成功するかどうかは重要ではなく、声をかける事が重要との事。私には良く分からない世界だった。
そこで私は外国人、というよりフランス人の恋愛観が気になり、知人に聞いてみた。「日本では好きな人が出来た時まず相手に好きだと伝えて、付き合ってくださいと告白してから交際が始まるんだけど、君も誰かと付き合い始める時はどんな風に始まるの?」私の質問に、知人は不思議そうな顔をした。「好きな人が出来た時に、まず相手に好きって伝える?何で?相手の事も良く分からないのに何で好きって言えるの?」知人の答えに、私はハッとした。30代・40代にもなれば、好きな人が出来たからと言って、いきなり告白なんて話は聞かなくなった。色々経験をして、相手の人となりを知ってから交際を始めるべきであると、経験で知っている人が多いからだ。
知人は二十歳でその時交際相手は居たが、多くの人と交際を経た上での意見ではなく、そもそもフランス人はそういう考えらしい。友達から始まって、長い間一緒に居る内に自然と交際が始まるらしい。「じゃあ、愛の告白とかはしないの?」「勿論する」きっぱりと言われた。一度告白をしたら常に愛の言葉を囁き合っているイメージがあったが、ホームステイ先の夫婦に「お互いを何て呼んでるの?」と質問したら恥ずかしがって応えてくれなかったのを思い出して、考えを改めた。そう言えば日本の場合、告白して断られても「好きな人に想いを伝えられただけで良い。満足した」という話をよく聞く。知人に言わせれば有り得ないとの事。「ナンパをする事が重要」なのと、何が違うんだろうと不思議に思ったが、恐らく最初に言った通り、相手をよく知ってから判断する事が重要なのだろう。恋愛以外にも言える事だ。