高齢者が病気になると

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高齢者が病気になると

私は高齢の両親と同居しています。昔は健脚でならした父も、今では歩行に杖が必須となり、通院以外の用事での外出はほぼなくなりました。病気のデパートのような父なのですが、特におととしは病気の当たり年でした。腎臓がんによる腎臓摘出手術、その直後に膀胱内にも腫瘍が認められました。手術を続けて行ったために体力が著しく衰え、しょっちょう熱を出すようになりました。腎臓がひとつしかなく、しかも前立腺肥大があり自己導尿をしているので雑菌がはいりやすく、頻繁に尿路感染症を起こしてしまうのです。発現症状はインフルエンザと酷似しており、まず急激な悪寒、震えに襲われ、その後38度を超える高熱が出ます。

若い人なら高熱が出ても、意識が飛んだり動けなくなるということはそうそうないと思うのですが、高齢者が熱を出すと全く動けなくなります。震えと悪寒は激しく、知らない人がみたらてんかんの発作だと勘違いするレベルです。それが起こると、その場所から自力では一歩も動けなくなり、布団まで誘導することすらできません。そして熱があった期間、数時間から半日分の記憶がなくなります。父は認知症ではありませんが、後から聞いても発熱時のことは全く覚えていないというのです。

去年の冬、突然の発熱があった日のことです。もう慣れっこになっていた私は、まず解熱剤を飲ませ、容態が落ち着いてきたころを見計らって、本人が「もう治ったからいい」としぶるのを説き伏せ、タクシーでかかりつけの泌尿器科医院に連れていきました。尿路感染症であることは間違いないので、抗生剤を処方してもらわなくてはならないからです。処方まではスムーズに行ったのですが、会計を待っている間、父の手が小さく震え始めました。「あれ?なんだろう」と父は訝りましたが、私は嫌な予感がしました。その予感は的中し、二分後には激しい痙攣が起こり、「ああ、あああ、あああ」という絶え間ない声が狭い医院に響き渡りました。小さな分院なので横になれる場所すらありません。一つしかない診療台に15分くらい寝かせてもらいましたが、患者さんが大勢待っているのに占領するわけにもいきません。看護師さんが付き添ってくれ、小さな車いすに痙攣する父を乗せました。同じビル下階の調剤薬局に行き、父の口に処方薬を入れてなんとか飲ませてから、駅近くのタクシー乗り場に向かいました。

タクシーに乗り込むところまでは看護師さんが付き添ってくれましたが、それ以降は一人です。私より20kg近く重い父をひとりでタクシーから降ろすのは不可能なので、タクシーの運転手さんが手伝ってくれ、自宅前のバス停の椅子に座らせてくれましたが、その後どうすればいいのやら途方にくれました。我が家はマンションなので、一軒家より自宅までの道程が長いのです。意識のない父は椅子から半分ずり落ちています。

通行人の女性が二人も助けを申し出てくれたのですが、三人がかりでも父を移動させることはできませんでした。マンションの管理人さんを呼んだところ、台車を持ってきてくれたので、それに父を乗せ、ひきずってしまう脚を私が一本持ち、通行人の方にもう一本を持ってもらい、自宅まで運びました。シュールな光景でした。台車で荷物のように運ばれる父の姿が妙におかしく、笑いがこみあげそうになる一方で、見ず知らずの方々が親切に手伝ってくださることがありがたくて涙が出そうになりました。今思い返しても感謝の気持ちで胸がいっぱいになります。父は相変わらず病気のデパートですが、お医者さんの生活指導を真面目に取り入れているため、今は熱を出すこともほぼなくなりました。

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