これは、以前私がジュエリーショップで働いていた時の話です。私が働いていたジュエリーショップは全国展開している大きなショップでした。将来海外に進出することを視野に入れ、外国人の方の採用を始めることになり、そこで採用されたのが台湾人の李さんでした。私は勤務店舗が異なるので直接会ったことはなかったのですが、周りからの噂で「ちょっと変わった人だ。」と聞いていました。詳しくは聞きませんでしたが、このショップはベテランの人がとにかく厳しく、耐えられず辞めていく人も多いところだったので、李さんがちょっと心配だなと思っていました。
その数か月後、色々な店舗からスタッフを集めた、大きな会場での販売イベントがありました。私はイベント人員では無かったのですが、急遽人が足りないのでヘルプに行くことに。その際、李さんも同様にヘルプに行くことになったから、道が分からない李さんと一緒に向かってくれと待ち合わせ時間と場所と李さんの連絡先を上司から伝えられました。初めて李さんに会うので少しドキドキしながら向かっていると、どうやら少し早めに着いたらしい李さんから電話が。「もしもし。田中(私)です。」すると電話の向こうから「田中か?田中は今どこだ?まだか?」とカタコトの日本語で思いっきり呼び捨てでした。びっくりして私はなぜかツボに入ってしまい、笑いそうになるのをこらえながら、とりあえず間もなく到着する旨を伝え電話を切りました。台湾には敬語という概念が無いのかもしれません。そして待ち合わせ場所に着くと、そこにはとんでもない美女がいました。それが李さんでした。そこで軽く挨拶をかわし会場へ向かいました。どうでもいいのですが挨拶の時は敬語でした。
道中思わず「すごくお綺麗ですね。」と伝えると、「そうなんですよ。」と言い、スマホの自撮り写真を見せてくれました。そうなんですよって。日本では絶対にないですよね。びっくりはしましたが綺麗なのは事実なので、自分でそれを認めることができるのは、とても素敵だなと思いました。楽しく話しながら会場に到着すると、たくさんのお客様で賑わっていました。商品の整理や補充が追いついておらず、バックヤードは大変なことになっていたのですが、ベテランスタッフは楽しそうに雑談していました。私たちが到着するなり、「遅かったね。商品整理と補充急いでね。」と言い、また雑談し始めました。すると李さんはすかさず「あなたたちはなぜ座ってしゃべっているのですか?急がなければならないのであれば、あなたもするべきです。」とはっきり言いました。ベテランはぶつぶつ言いながらバックヤードから逃げていきました。李さんは「なぜ商品整理をせずに、しゃべっていたんだろう?変な人だな。」と言っていました。このショップでは李さんは「変わった人」と思われていましたが、本当に変なのはどちらなのかと考えさせられました。