私たち家族が引越先に選んだ賃貸は、静かな住宅街の一角。
細い私道の一番奥にひっそりと立つ小さなアパートでした。
周りは皆一軒家で、契約前に何度か足を運んでみましたが、どのお家も静かで聞こえてくるのはテレビの音と子供さんの話す声ぐらい。
不法投棄のゴミなども見ることはなく、ご近所トラブルとは縁遠く、安心して暮らせそうな土地でした。
その方、仮にAさんとします。
Aさんと初めてお目にかかったのは、引っ越し当日でした。
私道の入り口辺りに住むAさん宅に引っ越しの挨拶に伺ったのがきっかけです。
第一印象は、温和な口調かつ人当たりの良い方で「これからどうぞよろしくお願いします」とお互いに頭を下げ、なごやかな雰囲気で初回の挨拶は終了しました。
そんなAさんに最初に違和感を感じたのは、路上の井戸端会議を何度か見かけた後でした。
周辺は住宅だらけなので、あちらこちらで井戸端会議をしている奥様方を見かけます。
その都度ご挨拶していましたが、Aさんだけは一度も井戸端会議に参加しているところを見たことがありません。
まあ女性同士は波長が合う合わないで派閥が出来がちですし、ひょっとしたらご病気か何かであまり外に出ない方なのかもしれないと、その時はあまり気にとめていませんでした。
Aさんにはっきりとした違和感を感じたのは、引っ越して3ヶ月ほど経過した頃のことです。
たまたま道ばたでお会いしてご挨拶したところ、「昨日はご家族の帰宅早かったのねえ。○○時だったでしょう?×日はもっと遅くて××時だったのに。△日の日なんて・・・。」
背筋がぞっとしました。
確かに家から出入りする際はAさん宅の前を必ず通りますが、なぜ家族の帰宅時間をそんなに詳細に覚えているのでしょう。
早々に会話を切り上げ自宅に逃げ込み、帰宅した家族にAさんの話をすると特にすれ違ってもいないし挨拶もしていないとのこと。
つまりAさんは自宅内からずっと観察していたことになります。
以来極力Aさんを避けるよう、外出する際は時間帯をずらしたり、通る道を変えてみたりもしました。
ですが変更した道でも遭遇したり、相変わらず家族の帰宅時間を私に報告したり、しまいには私や家族のプロフィールをしつこく尋ねてくるようになってきました。
結局私が耐えられなくなり、1年と少しでまた引っ越す結果に・・・。
これが私が経験したご近所トラブルです。
ストーカーと呼ぶほどの実被害を受けたわけではありませんが、とても恐ろしい思いをしたのは事実です。
住んでみないとわからないことってあるものですね。