私には今でも忘れることができない人がいます。
それは二十代前半を一緒に過ごした相手。
それまでも何人かと恋愛をしてきましたが、その人とは今までにない特別なものを感じていました。
相手の両親にも紹介してもらい、結婚という文字も出るようになっていたのです。
来年くらいには籍を入れようかと話をしていましたが、なかなか前に進むことができないのは私の親に彼を紹介することができなかったからです。
実は私には母しかいません。
そしてその母はお金にだらしなくてこれまでさまざまなトラブルを起こしてきました。
そのため、私は母と距離をおいていたのです。
そのことを私は誰にも話すことができませんでした。
もちろん彼にもです。
何故なら母と距離をおいていることを「シングルマザーで育ててきてくれた母親に感謝はないのか」などと批判されたこともあったからです。
彼は家族に恵まれているのできっとわかってもらえないと、母親にいつ会わせてくれるのかという言葉をずっと母が忙しいなどと言って誤魔化してきたのです。
結婚の話が形になりつつあることで、私は母のことをどう誤魔化そうかと必死でした。
会えば結婚の話になり、早く私の親にも会いたいなと言われてしまい、私は結婚してからでもいいんじゃないかと反論するようになったのです。
しかし、彼の方は親に挨拶しなくてはという姿勢は崩さず、だんだんと険悪な雰囲気に。
結婚したくないのではないかとまで疑われ始めたのです。
幸せな家庭を諦めていた私にとって彼は諦めていた普通の幸せを叶えてくれる人だとさえも思っていて、私もようやく普通の家族を築くことが出来るのではないかと希望を持っていたのに、結婚したくないはずがありません。
しかし、怠け者でお金にだらしない母と接点を持ちたくないという気持ちは変わらず。
親と疎遠だと話そうかとも思いましたが、彼に嫌われてしまうかもしれない、哀れな人間だと思われるかもしれないという思いが勝ってしまい、私は結婚なんてしなくても付き合って楽しければいいじゃないと言うようになったのです。
もちろん気持ちは違います。
母と会わなくても二人で家庭を築きたいという思いがあるのですが、だんだんと強がって結婚そのものを否定するようになってしまったのです。
彼は私の思いなんて気づかず、段々と険悪になっていき、大喧嘩の末、「結婚したくないなら別れる?」と迫られ私はそれを受け入れてしまったのです。
彼は「私となら幸せになれると思ったのに」と悲しそうにし、そのまま別れてしまいました。
こうして私の恋愛は終わりを迎えました。
もしもあのとき、母親のことを正直に話していたら違っていたのだろうか、母親と疎遠ということを知られたくないという私の変なプライドが、幸せになれるはずの恋愛を終わらせてしまったのです。