会社の上司に頼まれて、書類を取引先へと持っていくことになりました。
かなり重要な書類なので、確実に相手に渡すように言われました。
ですが、地名を見ても行ったことがないところで、かなり不安になってしまいました。
時代は、1990年代。今のように携帯電話がまだ発展していない頃の話です。
私は、先輩から手書きの地図を書いてもらい、早速、取引先へと向かいました。
地下鉄に乗り、目的の駅へと向かうのですが、行けども行けども着くことはありませんでした。
(あれ?なんで?)と思って、そばにいる人に聞くと、どうやら間違えて乗ってしまったみたいなんです。
おまけに、先輩が書いた地図も間違っているらしく、私はその人から正しい地図を書いてもらいました。
(どうしよう。もし、書類が渡せなかったら)サッと血の気が引くのを感じました。
急いで降りて、目的地へと向かおうとしたのですが、パニックになっている私には、どこに行ったらいいのかすらわからず、とりあえずタクシーに乗って向かいました。
約束の時間は午後の2時。まだ1時間はあります。
私は地図を見ながら、なんとか目的の場所まで歩いて行ったのですが、途中、工事中で迂回しなくてはいけなかったり、目印として書いてあったコンビニの場所が違ったりして、結局、着いたときには2時ギリギリでした。
急いできたことがバレないように息を整えると、相手の名前を告げました。
すると、受付の女性が申し訳なさそうに、「申し訳ありません。Aはただいま会議中でして、少々お待ちください」と、言われてしまいました。
疲れ果てている私としては、早く書類を渡して帰りたかったので、この一言はかなりショックでした。
会社に電話をすると、やはり直接渡すように言われてしまい、そのまま待つことになりました。
ですが、しばらくたっても会議は終わらず、それから1時間も待たされました。
「すみません。会議が長引いてしまって」
書類を渡した頃にはさすがにぐったりしてしまい、帰りは人に聞きながら、地下鉄に乗って戻りました。
まさか、書類を届けるだけでこんなに苦労するとは思ってもいませんでした。
会社に帰ると、上司はご苦労さんの一言もなく、先輩は間違った地図を書いたことを笑ってごまかしたのです。
私の心は複雑でした。
更に、残った仕事を片付けるまで家には帰れず、残業をするはめになりました。
それから、知らない場所に行くときには、まずは自分で調べてから行くようにしました。