私はとあるアパレルの販売員です。高くない時給で時には何万円もする服をニコニコしながら接客して売らないといけないので、普段から服が好きとか人と接するのが好きとかそれなりにフィーリングがあわないとモチベを保つのは難しい仕事です。私もそうで、趣味の延長だから続いてるようなもの。
高い売り上げを叩き出して稼いでるスタッフもいます。一定以上の売り上げを出すと歩合や賞金も出るので、多くの人は接客や服の勉強をしてそれを目指すのだけど、それでも将来性がある仕事とは言えず、とにかくモチベーションを維持するのが難しい。
そんな中、えげつないけど異様な頑張りを見せてトップの座に君臨した販売員がいます。うちの後輩、エミちゃん(22、仮名)がそう。
うちの店はメンズ服の客層は割と年齢高めで、中には40代のお客さんも。エミちゃんはすぐさまそんなお客さんにリーチします。アラフォーの男性にとって、二十歳そこそこの女の子に親身に話しかけてもらえる機会は決して多くないはず。これは暗黙の了解ですが、メンズ服売り場の女性店員というのはそういう側面をもってるもので、これはエミちゃんだけに限らず、はっきり言って女性店員はみんな少なからずそういうムーブをします(これは絶対に公式的には言えませんが、うちの会社もメンズレディース両方売ってるのに店頭スタッフの女性比率は最低7割になるようにしている)。
それにしてもエミちゃんのセールストークを側で聞いていると呆れてしまう。
服を売るときのコツの一つに、実際に買って着てる人の評判を教えるというものがあるのだけど、エミちゃんは毎回別のおじさん客相手に「パパがこれすっごい気に入ったって言ってたんですよ〜」と言っています。これまで言ってることが本当なら、エミちゃんの父親はお店のメンズ服をほとんど購入済みになるので、大嘘でしょう。でもとにかく、このフレーズは若い女の子が年上の人に無垢さを演出するには効果抜群で、お客さんも気に入ったと言って買っていきます。しかも、彼らはリピーターになる確率も異様に高く、エミちゃんはおじさん客相手に凄まじい売り上げをあげていました。
そんなある日、突然エミちゃんが辞めることに。聞くところによると、常連客と個人的な連絡先の交換が多すぎたそうです。本当にSNSのやりとりくらいだったそうだけど、増えすぎた常連客の送信先を混同して誤送信して、トラブル一歩手前だったとのこと。
のちにエミちゃんのスマホにあるその客の連絡先一覧を見せてもらったら、「パパ1」「パパ2」「パパ〇〇」…。常連客をみんなパパよび。そりゃ間違えるけど、でも接客の時に「嘘」は言ってなかったのですね。
今彼女はというと、何から何まで養ってくれる「パパ」のお世話になってるそう。その人はもとは服屋さんのときの常連とのこと。彼女の目的とモチベーションの源泉はここにあったのだなと、納得しました。そのパパには「本当のパパはあなただけ」と伝えているそう。きっと、嘘ではないと思いたい。