甘い玉子焼き 

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甘い玉子焼き 

社会人になって、私は母とケンカになってしまいました。
原因は、私の帰りが遅くなったことです。
母からすると、仕事が終わったのに、なかなか早く帰ってこない私を心配してのことだったのですが、私としては先輩方に仕事の相談をしたり、一緒に食事に行ったりと、なにかと忙しかったんです。

そのため、母の心配を心のどこかでうざいなと思ってもいたんです。
もう、子供ではないのだから、帰宅時間に対してとやかく言われたくありませんでした。
そんなある日。帰りのバスを乗り過ごした私を、男性の先輩が送ってくれたんです。
そうしたら、家の前で母が待っていて、私を見るなり、すごい形相で走ってきたんです。
そして、挨拶をする先輩に対して、いきなり文句を言い出したんです。

私しては焦ります。
先輩は悪くないのに、頭ごなしにまるで先輩が悪いかのように言う母に、私はたまらず大きな声で「やめてよっ」と怒鳴って、急いで先輩には帰ってもらい、私は母と口を聞きませんでした。
用意してあった夕食にも箸をつけず、そのまま自室に入りました。

そして、翌朝も私は朝食に手をつけず会社へと出かけました。
玄関で母が慌ててお弁当を渡してきて、拒否しようとしても母が無理矢理渡してきて、仕方なくお弁当を持って仕事へと行きました。

会社について、先輩に謝ると、先輩は意外にもニコニコしていました。
そして、良いお母さんだなと言ったんです。
私としては、はぁ?という感じでした。
どこがですか?と言おうとしたら、先輩はとても嬉しそうにしていたんです。

そして、心配されるのはとってもありがたいことなんだと言っていました。
それでも理解できない私に、先輩は母が何時間も外で私を待っていたことを伝えてくれたんです。
「お母さん。手が赤くなってたぞ?何時間も立っていたからじゃないのか?」
そう言われたら、確かにそうです。
母の手は赤くなっていました。そして、料理も2人分あったんです。
つまり、食べずに待っていてくれていたんです。

「うちなんて、残業で帰っても誰も心配してくんないぞ」
先輩が笑って言いました。私は、やっと母に対して自分がひどい態度をとったことがわかりました。
お昼。お弁当を開けると、いつもは入っていない甘い玉子焼きが入っていました。
そして、小さなメモには母の字で、「昨日はごめんね」と書いてありました。

母は、私のことをどれだけ心配してくれたのだろう。どれだけ待っていてくれたんだろう。
そして、怒っている私の姿を見て、なんて思ったんだろう。
甘い玉子焼きは、私が子供の時の好物です。
大人になってからは、甘くない玉子焼きを好むようになっていたので、とても懐かしかったです。
「甘い」
食べながら、泣けてきてしまいました。

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